「CGとしてのイノセンス」(1)

http://d.hatena.ne.jp/usui_soup/20040509#p2の続き

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■総論

原画、CGともに過剰な物理量が突っ込まれた作品だと思います。
そういう意味で労作だと思うし、画面を見ていても溜息が出ます。
OP、択捉特区のお祭りシーン、キムの館シーン、所轄署のラボのロボットなど特にそうです。
モニターグラフィックは、僕たちが視覚的経験がほとんど無い電脳戦の表現など、素直に「カッコよさ」が感じられました。2度目3度目の視聴では特に注意して見ていたほどで。

でも、率直なスウプの感想を言うと、モニターグラフィク以外のCGパートは「CG」にとどまっていると思います。
見たことある範囲とその延長線上に収まってる、と言うのが正直な感想なんです。確かに手間とデータ量が注ぎ込まれたカットのオンパレードではあるのですが。
CGが今までのアニメの押井作品に感じられた、新しい「ルックス」を獲得していないと思う訳で。
確かにアニメとしては異例なほどカメラが回り込んだりするカットが多いんだけど、それは、CGとしては当たり前な事だったりする訳でして…。

(ただ、押井作品のカメラって、「アニメとしては実写的」なカメラの置き方がカラーになっていた訳だから、押井作品としては新しい「ルックス」のカットが無いのは至極まっとうなことではあるのですが)


「CG物理量」のグラフがあったとして、スウプが普段作ってるCGの、グラフの延長線上に予想できてしまう「画」だったんです。で、アニメ作品がそういう「ブルートフォース」的なアプローチをとるのはどうかと思うんですね。「ブルートフォース」的なアプローチの先には、例えば「フィナルファンタジー」シリーズのCGがあって、その製作体制の物量に、アニメの製作体制が勝てるのかと。(スウプはFFのOPムービーを見ても「ああ、しんどそうだなぁ」とは思っても、「すげーなー」「かっこいいなぁ」とは思わないんです)

スウプがなぜアニメ作品に注目するか、はっきり言ってかなり安い値段でもアニメの仕事をお手伝いするのか、というと、カット単位でアニメのカメラ、キャラの動き、タイミングは、CGでフツーにカメラを動かし、キャラにモーションを付けた物とは明らかに異なる「視覚的快感」があると思うからなんです。
カメラから物が遠ざかる(近づく)単純なカットでも、ラフ原、タイミングシートに従って動きを付けると、3DCGソフト上ではかなり「嘘」をつかないと合わなかったりします。ですが、「視覚的快感」としては、漫然と3DCGでカメラを動かし、モーションを付けたものより明らかに上に感じたりするんですね。*1
で、そんなアニメ的な絵の作り方と3DCGの狭間に新しい「ルックス」の画があるとスウプは思っているんですが、そういう発見が見られなかった、と。

まず頭の中で欲しい視覚効果を完全に構築してレイアウトに落とす、という「アニメ」のアプローチよりも、
むしろ、仮想3次元空間を構築して、自由にカメラを置きたい、見てみたい、想像力の枠を超えられるのではないか、、、ユリイカの押井監督のインタビューその他を読むと、今までに無い新しいものが「CGを導入する」ことで「見つけられる」のではないか、という「可能性を求める姿勢」、そんな監督、演出家の欲望が、スウプのクダラナイ勘繰りかもしれませんが、ほのかに見えてしまうのです。


で、そうであると仮定して、たしかに、上記のようなアプローチも方法論としてはアリ、だと思うのですが、結果としてはCGでありがちなタイミングの取り方、パースの取り方、しか感じられなかったのです。
また、過剰なほどの物理量を感じるカットもあれば、1本の線に勝ててないカットがあったりとか。

やはり、面白い、新しい、かっこいい「ルックス」を獲得できるかどうかは人間の想像力があっての事だと思うんです。そういう、想像力、言い換えると「強い意志」が感じられなかったよなぁ、と。
また、これは(アニメに限らず)映像制作におけるCGの立ち位置も影響していると思うんです。
3DCGってのは、CMでも映画でも、そしてアニメでも、CGサイドが主導権を取って画作りをしてきた歴史が無いと思うんですね。「ルックス」をコントロールする立場の人が「期待する以上」を作るのは難しくて、「オーダーされた物を作る」という姿勢になりがちなんです。画に対して「強い意志」をもって3DCG作っている/作る事ができている人は稀だと思うんです。*2(また、そんな事しないのが3DCG業界のプロ意識だったりします)
それは、アニメの特に原画様にありがちと思われる「やったもん勝ち、描いたもん勝ち」な姿勢とはまったく違いまして。


なんか、もう半歩、欲しかったよなぁ、という事でして。

次回からは各論に入りたいと思います。

*1:例外はあります、ラフ原に無理やり合わせるより、3DCG的にタイミングを付けたいカットもあったりした事もあります

*2:3DCG業界の「強い意志」とは「寝ない」「余計な事言わない」「締め切りはきちっと守る」てなとこだと…。昔、「CGとはクリエイティブワークではなく、サービス業だ」と聞いた事があります