三鷹へ

『怪獣と美術』−成田亨の造形芸術とその後の怪獣美術−を観に行った。
正直、駅前の市営のそれほど広くは無さそうなギャラリーの展示だった事もあって、同行したzun氏を誘う際も「お腹いっぱい、ってな展示ではないと思うんだけど、行きます?」って言った程だったんだけど。



で、それはとんでもない間違いだったな、と。
まぁ、他の観覧者が「もっとヌイグルミとかがあると思ったんだけどなぁ」と言ってるのが聞こえたから、そういうのを期待していたなら「ハズレ」だったかも知れないけど。
その代わり、当時の現場で使うためのデザインスケッチ、怪獣ブーム後も個人として制作していた「怪獣美術」、怪獣から離れた芸術作品等、「なかなか目にすることの出来ない」作品ばかりだったので、私みたいにレベルは違えど「制作業」に携わっている人間からすると、ものすごい勉強になったと言うか、「教育された」と言うか、そんな感じでした。
いや、ホント行って良かった。


  • 成田亨氏の、ウルトラマン初期デザイン画、怪獣デザイン画、その後の平面、立体両方の「怪獣美術」、いわゆる芸術作品の展示。
  • 高山良策氏は芸術作品をメインに。
  • 第二次怪獣ブームを支えた池谷仙克氏の、デザイン画。
  • そして原口智生氏の、近年、実際に撮影で使われた「被り物」の作品。

というのが、展示の概要。
で、以下思ったこと。

  • レッドキングカネゴン等のデザイン画なんだけども、その筆運び*1、構図、造形のアイデア、を見ると「ある程度のターゲットを想定した、コミュニケーションツールとしてのスケッチ」ではなく、「芸術家として創造のテーマをキッチリ設定したうえで、それを「怪獣」と言うフォーマットに落とし込んでいる」と言う姿勢が感じられたんだけども。
    つまりは、デザイン画なんだけども、「この世にないものを作ってやる」という気合と言うか気迫が漲ってる感じなんだな。線といい、フォルムといいアイデアといい、キレキレというか隙無しとうか、そんな感じ。
  • 一貫して感じられたのが、非対称、空洞、と言うテーマ。
  • ウルトラ初期は、文字通り「中の人」の体形に配慮したデザインなんだけど、後期には「生き物」の体形とか骨格という枷からでさえ自由になろうとした、その創造力に驚嘆。普通、生き物としての体形とか骨格を無視してしまうと「訳の分からん、適当なデザイン」にしかならないのが普通なんだけど、成田氏のデザインは、ちゃんと「宇宙怪獣」になってるんだよなぁ。

3DCGのポータルサイトなんかに、アメリカのハリウッドのデザイナーが、モンスター制作のチュートリアルなんか載っけてたりするんだけど、そういうのって大概「モンスターだからと言って、自然界にある骨格とかを無視しては説得力のある造形は出来ません」なんてのが、それこそテンプレのように語られるんだけども、そんなのは問題にしない創造の領域だったんだなぁ、と。

  • で、そんなキレキレのカッコ良過ぎる成田氏のデザインを、高山氏の造形の過程を通すと、非対称でシャープなデザインのカネゴンが、番組冒頭で子供達にいじめられる様な「愛嬌のある、子供番組の怪獣として誠に正しい」カネゴンになるんだなぁ、と。造形上の都合、ってのはあったのかも知れないけど、そういうテイストの変化は誠に正しかったよなぁ、と。
  • だけど、高山氏は個人の芸術作品としては、zun氏曰く「生理的な気味の悪さが潜在する」抽象作品を制作されていたのが、また面白いなぁ、と。
  • 成田氏の怪獣ブーム後の個人制作の怪獣美術には「自由さ」があって本当に良いなぁ、と。あと、個人のテーマに「生業」であった怪獣を取り込んでるのも、自由だなぁ、と。そこら辺、高山氏がほぼ別系統って言っていい抽象芸術を個人制作していたらしいのとは対照的。
  • 池谷仙克氏の作品は、zun氏曰く、体表というか、皮膚のディテール、デザインに注力したものが多いと。怪獣というジャンルが確立した後の「仕事」の為なのか、あるいは池谷氏の方向性なのか、怪獣の体形やフォルムとしてはオーソドックスなものが多い。
    たしか、CSの特番*2で池谷氏が初めてデザイン画を、成田氏だか高山氏だかに持って行った時に「このデザインでは、(制作上だか撮影上だかの理由で)問題があるね」とチェックを受けた、というインタビューがあったように自分は記憶があるのだけど、ひょっとしたら、その最初のチェックが影響してフォルム的には冒険は抑えたのかも。
  • 原口智生氏の時代なると、これはもう、「洗練」の段階と言っていいかも知れない。「グドン」の頭部像が展示してあったんだけど、どの方向から見ても完成されたシルエットになるその立体のバランス、皺一本の高さ長さ波打ち方とその入り具合の完璧さ、どっから見てもカッコいいし、美しい、と。ウルトラ初期のどこか荒削りな部分とかがある造形とは隔世の感があるな、と。


いやほんと、お腹いっぱい、消耗しまくりでした。
一通り見終わって会場を出たときに「ちょ、ちょっと椅子に座りたい…」って、ヘタレてしまったほどで。
ちょっとね、いろいろ強烈でした、自分には。

(つづく、かも。)

*1:細目のペンで緻密

*2:ヒストリーチャンネル「怪獣のあけぼの」