映画ローレライのCGについて

今のタイミングならSW EP3だろ、と。でもまだEP3は見てないし。
「今更」感がありますが。そういうのもあって「作品として」の感想を書いてから「CGとして」は書いてなかったんですが。



でも、この前EP2が地上波でやってて、
EP1までは私みたいなCG制作技術者のはしくれでも、CGIについて色々と突っ込みどころがあったのだけど、EP2以降は全くそういう側面が無くて、「演出的にどう」とか絡めて言う事しかなくて。
そんだけ、CGI、それにミニチュアなどの旧来の延長での「特撮技術」としては完璧だなぁ、と。
で、「ローレライ」のCGIを思いつつ、「ああ、やっぱりそうよね」と思う事があったんですね。
また、実は、CGソフト会社主催の「ローレライ」のメイキングセミナーもずいぶん前にいっていて。そんな訳で「ローレライ」のCGを、そのセミナーで聞いた内容やSWEP2を通して語ってみよう、と。



で、セミナーで聞いた事を踏まえて言うなら、「ローレライ」のCGは「ツメが甘いor甘くならざる得なかったのね」と。



で、EP2の遠景のCGI(というか、CGマットペイントと言うべきか)のデキを見たとき、「ローレライ」の何が「CGっぽさ(というかチャチさ)」を醸し出しているかと言うと、それは画面全体の「コントラスト、色味調整」のまずさ、そしてその結果としての光源設定のリアリティの無さ、なんだろうな、と。



つまり、技術とかバジェットとか言うより*1も、画に対しての調整が足りてない、と。



CGIってゼロから画を作り出す*2んで、リアリティのあるコントラスト、色を完全にコントロールしてやら無ければならない、と。そこがミニチュア撮影を含めて「在る物をフィルム*3にとる」世界とは異なるんですね。またそこがCGIが映画に使われて、結構時間が経つと言うのに、未だに新しいレンダリング手法が開発されたり、レンダラーのプラグイン化が進んでる理由だと思うんです。
「もっとリアリティのある光源計算をやってほしい!」ってことですな。
といっても、レンダラーがいくら進化しても画に「調整を加える」事はなくならないと思いますけど。



で、「ローレライ」の場合。
結構、アニマティックスの段階から次の段階まで進められなかったみたいで。
と言うのも、監督から「やっぱりこんなカメラアングルとか、あんなアングルで作ってみて!」ってな要望が多かったみたい。つまり、カメラワーク、モーション付け、の段階で足踏みしていて「本番レンダリング、コンポジット」までなかなか進めなかった、と。さらには、ミニチュア撮影で制作される予定だったカットが「やっぱり、こんなカメラワークにしたいから(ミニチュアのフッテージ捨てて)CGで作り直して!」とか。最後はいったいどのカットがミニチュアなのかCGIなのか誰も分ら無くなっていた、とか。



で、そこから自分は「光源設定、コントラスト、色」の調整を要する工程の段階になかなか進めず、それらの時間が削られていった、と推定しています。
また、こういうリテイクって、作業量を爆発的に増やすんですね。特に自分には「ミニチュアから変更」なんて日本の、予算等に余裕の無い、VFX制作の戦略として自分にはナンセンスに思えますね。



そこら辺、EP2はCG制作の戦略的にも戦術的にも優れていたんだろう、と。



リアリティがある画面の作成って、ほんと微妙なんです。
「ある程度、だいたい」リアルなCGI*4ってソウでもないんですが。
ライト強度をコンマ2桁で調整するとか、色調整でBを2とか3とか加えるとか、レイヤ濃度を1パーセント2パーセント調整するとか。
すくなくとも、自分の経験上はそうなんです。
で、その数字がビタッと決まった時は「おお、自分も結構やるやん」と、思えるという(笑)。
で、そういうリアリティを出すのに重要な時間を割くことが出来なかったんではないか、と自分は思っています。



監督は特撮出身と言えど、CG制作の時間配分というかノリみたいなを知らないんだろうな、と。
「そのための特撮/CG監督じゃないのか」という話にはなるとは思いますが、日本の現場って、第一に「声が大きい人」、でなければ「監督」の言う事は全てに優先する、と*5。「特撮/CG監督」が監督に向かって「もうそろそろ決めないと、まずくなりますよ」と上申する事は無いんだろうな、と。



カットを弄くるってのは、監督やらの「画を決める人」にありがちな、CGIに対する「誘惑」だと思うんですね。「見てみたい、試してみたい」という。
イノセンス」にもそういう誘惑に負けた風なところありますな。
で、CGってモニタ画面に変更がパッと反映される*6し、チェックを監督とかを作業現場のモニタの前まで連れてきてアレヤコレヤのコメント貰う、ってのが「アリ」になってしまってますから、カットを「弄繰り回す」事になりやすいんだろうな、と。
でも、それやっちゃうと「フィニッシュ」に掛ける時間が減ってしまって、監督的には思い通りのカットで満足、でもデキが今一歩、と。



樋口監督は特撮、アニメ出身というか、元から実写に関わっていたけど実写界の「画に対するこだわりの薄さ」が原因で、画をゼロから作り出すゆえに「コンテ、レイアウト主義」で「どんな画を作るか」という点において「拘りを持たざる得ない」特撮、アニメに関わりを持つようになったと思うんだけど。
CGもゼロから画を作る事においては特撮、アニメと同じな訳で。



そんな、「CGだからって、弄り過ぎてはいけません」てお話で。
じつは、あと2つほど思う事があるんですが、それは機会があれば、という事で。


追記:
こちらに続きを書いてみたんで、よければどーぞ。

*1:いや、それも「勿論」ありますけど

*2:実写合成でも、実写のフッテージに合う画をゼロから作り出す

*3:や、HDカムでもイイですけど

*4:つか、「CGっぽい」CG(笑)。

*5:自分はコレを「エライヒト」システムと呼んでいますが

*6:けど、それって大まかな変更であって、殆どの場合ファイナルに持っていくのに其れなりに時間掛けないとなんないんですね