ダークナイトのつづき

な。
なーんか上手く纏まらないんだけどね。



ネット上の評とか、見終わってから改めて眺めてみると、「あー、自分がこの映画から受け取ったと思った事は、少しズレがあるんだなー」と。あるいは、余りにも自明すぎて書かれていないだけなのかな。
まぁ、てな訳で、そこら辺のことを書いてみよう、と。









悪と何か善とは何かの哲学的な問い、とか、絶対的な善の弱さ、とか、二面性とか苦悩だとか。
そういう抽象的な問題をテーマとして見るのは、台詞だとかカットだとかをマンマに捉え過ぎているんじゃなかなぁ、と。自分は、この映画は、もっと具体的で、観客にあからさまに問いかけている、つまり前に書いたように「突き付けている」と思うんだけどな、と。


あと、ジョーカーを「理解不能な」「理不尽な」悪意の権化だとか狂人だとか。
うーん、そこは、自分から見ると凄く分かり易く描いてあって、それ故にこの作品はすごいなぁ、と自分は思ったんだけどなぁ、と。




まず、ジョーカーというキャラクターから書いてみよう。
彼の悪行の動機は凄くシンプルで、対象とする人物が、邪悪という「ぽっかりと開いた暗い穴」に落ち込むのを見る、そしてその様を楽しむってのが目的だよなぁ、と。
だから冒頭に「(ジョーカーは)人にやらせといて、自分は手を下さない」って台詞が*1あって、それは、ギャング団を襲撃した際に「生き残りゲームをさせる」。ギャング団の集まりに、あんたらからしたら俺は敵だけど、手を貸してやってもいいんだぜぇ、と「選らばせる」。検事とヒロインとどっちを助けるか「選択させる」。いまテレビに出てる奴を殺したら無差別殺人止めてやるぜぇ、と市民を煽る。2隻のフェリーの互いに仕掛けた爆弾の起爆装置を渡して「ボタンを押させ」ようとする、等々。
その他のドンパチについては、丁寧にも「わざと捕まったのか」とかの台詞を挟んで、テーマとは関係が無いと「お断り」を入れてるように思うんだけど、どうだろ。


そんな訳で、このキャラクターは「良き市民、人」が足を踏み外すのが見たくて全部やってるよなぁ、と思ったな、と。全てその為の「そそのかし」よな、と。
で、このキャラクターはそれを「善人面しやがって、ちょっと揺さぶってやりゃあ、ギャングも警官も市民も、みんな足踏み外しやがるじゃねぇか」と。
彼の悪行は「お前は踏み止まれるのか、どうなんだよ」と問い掛けているんだよな、と。





で、「どうなんだよ」が、ゴッサムシティ市民=スクリーン前の私達に突きつけられるのが、ジョーカーが「バットマンがマスクを外すまで、無差別にゴッサム市民を殺していく」と宣言して以降の映画後半。

それまでの映画前半は、ジョーカーが「踏み外し」を仕掛けるのがギャングだったり、「お前みたいなのがいるから、俺(ジョーカー)がいるんだ」とかの抽象的な話だったりするんです、確かに。
で、それ故に、観客は作品で起こってる事は、スクリーンの向こうの出来事として、エンタテイメントとして眺めてられるし、「バットマン、もっとやれー!」みたいな、いつものアクションヒーローモノとして見てられる、と。


それが、後半は、「お前は踏み外さずにいられるのかよ」ってのが劇中の「普通の人々」に向けられてからは、「突き付け」がスクリーンからはみ出して、観客席にヒタヒタと流れ出してきたような気がしたんだなぁ、と。
他にもあるけど、そのクライマックスがフェリーのシーンよな。


あと、最後に検事のお話は駄目押しよね。検事は映画前半はあまりリアリティの無い正義漢でいられるんだけど、ゴッサム市民や裏切った警官たちと同様に、「身近に」ジョーカーの悪意が及ぶ(最愛の人(=ヒロイン)を失う)、と「そそのかし」に乗ってしまって、足を踏み外してしまう、と。



この映画、よく言及されている「コインの裏表としての善と悪」とかダークヒーローがうんたら、とかのテーマなら、最後2、30分はブッツリ切って、ラスト何シーンかチョチョイと調整すれば、「この夏の娯楽大作」として成立するでしょ、と。秒単位でカット詰めたりシーンを吟味したりとかの、普通の意味で尺を詰めるってのではなく、単純にぶった切っても、ね。
つか、でなければ、最後の検事のお話って、冗長でしかないよね、と。検事が復讐に走る切っ掛けも、かなり無理があるよな、と。
逆にその方が、興行的にも映画館の回転が良いし、トゥーフェース誕生!次回作をお楽しみに!とも出来るし、観客も悪玉が捕まって(あるいは死んで)目出度しめでたし、でカタルシス満点で映画館を後に出来るわけで、エンターテイメントビジネス的にはそっちの方が美味しいんじゃないかな?


あと、バットマンは「正義ゆえの苦悩」たらなんたらは、していないよね。衝動には襲われるけど。
笑いながらビルから落下していくジョーカーを、バットマンが「殺さない」ってのは、正義たらなんたらで無くて、「ジョーカーの思う壺にならない」「ジョーカーを殺した時点で負け」だからよな。




あら、なんか最後はグダグダになってしまったな。
けど、うまく纏めてしまうと、色々抜け落ちるような気もするし、ま、いいか。

*1:や、実はその場にいるんですけどね